「説得力がない」と弁護士が感じる文章
弁護士石井琢磨です。

WiLL(9月号)の18ページに、生活保護に関する文章が掲載されていました。
WiLL (ウィル) 2012年 09月号 [雑誌]
WiLL (ウィル) 2012年 09月号 [雑誌]


不正受給の問題から生活保護の縮小、三世代同居などの家族の拡大・変容を主張した内容でした。
結論部分はともかく、私は、この文章を読んで、「こう書くと説得力がなくなるのだな」と感じました。
多くの街の弁護士も同じように感じるのではないでしょうか。

まず2カ所を引用してみます。


「母親が生活保護を受けていた大阪府の在る市の職員に扶養義務者としての負担を求めたところ、できないと答えた。その理屈が
ものすごい。扶養すると自分たちの生活が苦しくなるからできない。なぜなら住宅ローンの支払いがあるから、と。
この理屈づけは異常である。住宅ローン返済の途中であるならば、持ち家を諦め、ローンの元金残高分を家の値段として売れば、安いのですぐ売れる。そうすると住宅ローン負担分がなくなり、親への扶養分などすぐ出るではないか。しかし驚くことに、この屁理屈が通っているのだ。」

「他の例もある。農村における生活保護の様子がテレビに映し出されていた。見るからに過疎地。生活が苦しくだれも扶養してくれないので生活保護を受けている、と自宅の前で老婆が話していた。その自宅ときたら、寄せ棟造りの巨大な家ではないか。庭も広く、木々
もよく手入れされている。土地は約2百坪もあろうか。まずはその家や土地を処分した金銭で生活すべきではないか。過疎地ゆえ値段は安いかもしれないが、それをしないで<豪邸>に独り住んで、庭木の手入れを誰かにさせながらの生活保護受給というのは、納得できない。」


自分の主張の説得力を高めるには、どうすればよいでしょうか?

理由を書くのが効果的です。

その理由のなかには、ある事実を前提にして述べるものがあります。

「○○(事実)だから、こうである」

このような展開をした場合、もし、その前提事実が間違っていると、土台が崩れてしまいます。
説得力がなくなる。

「携帯電話が壊れたから、iPhone5を買いたいんだ」

と家族を説得するとしましょう。

「携帯電話が壊れた」は前提事実です。
実は壊れていなかったという場合、理由がこれだけだとiPhone5を買いたいという主張は通らなくなります。

詐欺や悪質商法の勧誘では、この前提事実を意図的に虚偽のものにすりかえる手法が使われます。
「携帯電話が壊れた」ように見せかけたりするわけですね。

そこまで極端な場合でなくても、説得力を高めるためには、「前提事実が正しい」と相手に思わせること、疑問を持たれないことが重要です。

冒頭にあげた生活保護の文章を読んで、私が感じたのは、「前提事実がおかしくないか?」という疑問でした。

具体的にみていきましょう。


「住宅ローン返済の途中であるならば、持ち家を諦め、ローンの元金残高分を家の値段として売れば、安いのですぐ売れる。そうすると住宅ローン負担分がなくなり、親への扶養分などすぐ出るではないか。」


街の弁護士がふだん相談を受けている住宅ローンって、多くがオーバーローン物件なんですよね。
家を売った価格よりも、ローン残高の方が多い。
そのため家を売ってもローンが残る、そもそも安い価格での売り出しには銀行が応じない。

頭金をたくさん払っていたり、繰り上げ返済をどんどんしている場合には、ローンの元金部分で家を売れるのかもしれませんが、通常、新築物件は購入直後に価値が激減すると言われており、なかなかそういう物件は少ないと思います。

ちなみに、家を売ってローンを返済できた場合、住宅ローン負担分がなくなるかもしれませんが、賃貸による家賃が発生します。ここも考える必要があります。

前提事実への疑問が何度も続くと、ボディブローのように説得力は弱っていきます。

さらに続く2カ所目の引用部分で、見るからに過疎地という地域について

「まずはその家や土地を処分した金銭で生活すべきではないか。過疎地ゆえ値段は安いかもしれないが」



という記載があります。

地方の不動産って、安いどころではなく、引き取り手がいないことが多い。
不動産会社がそもそも査定をしてくれない。
地元の不動産会社をあたっても、「まったく(売買が)動いてないんですよね」と言われる。
誰も引き取り手がいない。むしろ固定資産税が負担。

このような理由で、自己破産をしても、地方の不動産を所有し続けられるケースがあります。
本人も所有したくないのに。

私が冒頭の文章を読んだときには、「オーバーローンだし」「売れないし」と感じました。

このように前提事実に全く同意できなかったので、説得力が弱い文章だと感じてしまったのです。

前提事実が違うと感じる箇所がいくつも出てくると、説得力はゼロになりますね。


説得力をあげるためには、「この前提事実は相手にどう思われるか?」と意識しなければならないということ。

結論には価値があるのに、前提事実でその価値を下げてしまってはもったいない。

みんなで気を使っていきましょう。

WiLL (ウィル) 2012年 09月号 [雑誌]
WiLL (ウィル) 2012年 09月号 [雑誌]花田紀凱 責任編集

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