税務署が生活保護費を差押え
弁護士石井琢磨です。

消費者法ニュース90号のなかに印象的な記事があったので紹介します。

尼崎あすひらく会の方の記事。

生活保護を受けている口座を税務署に差し押さえられ、食費にも困った人がいました。
弁護士に相談したところ「裁判」と言われました。
しかし、裁判にかける時間はない。
会の担当者の方は、休日返上で裁判例を調べ、似たような事例を見つけました。
そこで、税務署に直接掛け合い交渉。
税務署も理解してくれ、差押えを解除。

という事案です。


生活保護を受ける権利や年金は差押えが禁止されていますが、そのお金がいったん預貯金口座に入ると、法律上は「預金」として扱われるため、差押えが可能になります。
最高裁平成10年2月10日判決でも、このような判断がされています。
しかし、生活保護は差押NGなのに、口座に入金されたらOKというのは、時には不均衡でないか、という疑問が出てきます。
このような疑問を受け、最高裁判決のあと、年金などが振り込まれた預金口座自体の差押をNGとした裁判例もあります(東京地裁平成15年5月28日判決、千葉地裁八日市場支部平成15年2月3日判決等)。

これらは貧困者の弁護をしている弁護士なら知っている情報。
おそらく上記の相談を受けた弁護士もこの裁判例は知っていたのでしょう。

しかし、法的に、強制的に差押えを解除するためには時間がかかる。

また、税務署相手の交渉というのは、弁護士業務のなかでは多くありません。
交渉は、担当者の裁量などもあり、見通しが立てにくいものでもあります。
そのため、弁護士としては事件として受任するに至らなかったのでしょう。

これに対して、会の方は、とりあえず全力でやってみる、という態度で行動していて結果につながったように読めます。

さらに、この会の方は、税務署との交渉の際に「このままだと餓死するしかない」と迫ったそうです。

餓死。

強烈な言葉ですね。

これが効いたのでしょう。
実質的に生活保護費の差し押さえであれば、税務署にとっては差押えた金額は高くはないはず。
それに対して、差押えを維持し万が一でも餓死された場合、国の機関としてマスコミにバッシングされるリスクが高いです。
また「税金なんて納めてられるか」と考えちゃう人が出てきてもおかしくありません。

だから、「死ぬ」という交渉が効いたのだと思います。


この事件では、一人の命が守られ、良い解決ができたと感じます。



しかし、このような報道がされると、やたらと自分の命を交渉材料に使っているかのような発言をする人が出てきます。

「死ねってことですか」
「死ねばいいんでしょ?」
「殺す気か」

この強烈な言葉は、使う場面を慎重に考えないといけません。
場面によっては、思い切り引かれて話し合いにもならなくなったり、クレーマーだと判断されてしまうリスクもあります。

さらに、「殺す」とか「死」という言葉を安易に使っていると、刑事事件に発展することもあります。

私は、数件の殺人事件を担当したことがありますが、未遂事件も含めてほとんどの事件で、犯行前に加害者と被害者との間で「死」についての発言がされています。

「殺してやろうか」
「刺してみな」
「殺せるもんならやってみな」

こういう発言をしていたら、本当にやられてしまった。



たぶん、被害者は誰一人として、殺される(殺されそうになる)とは思っていなかったでしょう。

安易に強烈な言葉を使ってしまったことで、その空気に取り囲まれて、被害を受けてしまっています。


あるシーンでは使える言葉も、違うシーンでは大きな代償を払うことになります。


強烈な言葉は選んで使ってくださいね。




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2012/02/24(Fri) | 消費者問題 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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