ワンピース全64巻万引きのコストパフォーマンス
弁護士石井琢磨です。
最近、まず動くことが大事だと実感している日々です。


さて、先日、26歳男性がワンピース全64巻を一度に万引きし逮捕されたと報道されました。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120124-OYT1T00003.htm?from=tw

ボストンバックに入れて持ち去ったそうです。

この犯行に対して、ネット上では「大胆だ」という声が大きいようです。

しかし、「窃盗罪の中の一部において」という限定をすれば、この犯行のコストパフォーマンスはかなり高いです。
大胆というより、経済合理性がある行為とも言えます。

どういうことか。


上記ニュースでは、
「同署幹部によると、男は漫画64冊を、計約2万6000円の正規価格に近い約2万3000円で買い取ってもらったという。」
と報道されています。

ワンピース全巻セットは中古でも高く買い取ってもらえるそう。
私は知りませんでしたが、ワンピース全巻窃盗事件は以前からあったそうです。
それどころか、昨年11月には、バラエティ番組でも「ワンピース全巻万引きが流行している」旨の話が出ていたようです。
同時期、Yahoo!知恵袋でもワンピース全巻万引きについて質問がされています。


定価は約2万6000円のところ、約2万3000円で買い取ってもらったとの話。
これだけの高値で買い取りしてもらえる漫画はそうありません。

転売目的で万引きするなら、高く買い取ってもらえる物を対象にした方が利益は多くなります。

一方で、窃盗罪の裁判などで罪の重さを決める際には、犯行態様、動機、前科、再犯可能性、被害回復などの諸要素のほか、被害額が重視されます。


1000円の食料品万引きより50万円の宝石万引きの方が罪は重い。


第一東京弁護士会 刑事弁護委員会が出している『量刑調査報告集Ⅱ』という本があります。
犯罪ごとの量刑をまとめた本です。


このなかで、「書籍類の万引きで実刑判決を受けた窃盗事件」の量刑を見てみると

コンビニで書籍12冊(販売価格10422円)→懲役8月
書店で書籍2冊(販売価格7600円)→懲役1年2月(執行猶予中の犯行)
書店で書籍5冊(販売価格30400円)→懲役1年4月(執行猶予中の犯行)
古本店で、写真集26冊ほか2点(販売価格49850円)→懲役1年6月

と、販売価格の額が大きくなればなるほど、量刑も重くなる傾向にあります。


ちなみに、「万引きくらいで逮捕されるとは思わなかった」などという言い訳は通用せず、
上記報告集では、漫画1冊販売価格505円の万引でも懲役刑が言い渡されています(執行猶予付)。


上記のとおり、万引きの場合、起訴状などに載る被害総額は、販売価格が通常です。

高い物を盗めば罪が重くなる。

ということは、転売目的の場合、より安い販売価格で高く売れるものを万引きした方が利益は多くなりそうです。

たとえば、5万円の本を万引きし、転売して2万円の現金を得たケースと
3万円の本を万引きし、転売して2万5000円の現金を得たケース。

転売目的の場合、後者の方が得られる現金は多くなり、かつ、起訴状に載る被害額は少なくなります。

この点を考えると、コストパフォーマンスとしては後者の方が優れています。

さらに、被害弁償をする、という視点に立ちましょう。

刑事事件になった場合、罪を軽くするために、被害弁償として実費を被害店舗に払うことがあります。刑事手続の中で被害弁償をしなかったとしても、民事の問題として、万引き犯は、被害店舗に対して、販売価格の賠償義務を負います。


たとえば、5万円の本を万引きし、転売して2万円の現金を得た。
この場合、5万円を弁償。
犯人は、2万円の利益-5万円の弁償で3万円の損失。

3万円の本を万引きし、転売して2万5000円の現金を得た。
この場合、3万円を弁償。
犯人は、2万5000円の利益-3万円の弁償で5000円の損失。

損失額は6倍違うのに、起訴状に載る被害額は前者の方が高いのです。


このように得られる利益と、被害弁償をした際の損失という視点に立つと、
高く売れるものを万引きした方が得られる利益は大きくなります。
もちろん、犯罪利益を上げるのが目的なら、現金や、転売して販売価格より高く売れる物の方が良いことになります(後者のような物を発見できるなら、正規に仕入れて商売を始めた方が無難ですね)。


では、漫画のなかで、ワンピースの転売価格はそれほどすごいものなのでしょうか?

巻数が多い漫画の全巻セット価格を調べてみました。
Amazonで全巻を新品で購入する値段と、売却可能価格ということで、ヤフオクで同一時間帯に一番高く値段が付いているものを調べ、新品価格に対して売却可能価格の割合を利益率として出してみました(落札価格ではないので、本当はもう少し高くなるはず)。

ワンピース1~64巻 Amazonでの全巻セット 26355円
ヤフオクでの入札価格 22800円
利益率 87%

ゴルゴ1~162巻 Amazonでの全巻セット 85240円
ヤフオクでの入札価格 25000円
利益率 29%

こち亀1~177巻 Amazonでの全巻セット 72740円
ヤフオクでの入札価格 20000円
利益率27%

ワンピースは、大量に巻数を重ねている漫画の中でも利益率が圧倒的に高い。つまり値崩れしていないことが分かります。

このような点から、「漫画全巻を万引きする」ことを前提にすれば、ワンピースは極めてコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。

「大胆だ」と評価される、ワンピース全巻万引きも、漫画全巻万引き行為の中では、経済合理性のある行為であり、利益率を見積もって及んだ犯行である可能性もあるわけです。


しかし、全体のコストパフォーマンスというか、得られる利益とそれにかかるコスト(リスク)という点では、ワンピース全巻万引きは到底勧められるものではありません。

漫画全巻万引きという分野の中では、コストパフォーマンスが高い行為でも、万引き全体の中で見れば、これを上回る万引きはあります。もっと換金率が高い物は世の中にたくさんあるでしょう。
それ以外に、犯行が発覚するリスクまで考えると、漫画を60冊バッグに詰める行為は、極めてリスクが大きいといえます。

さらに、法律家の立場から言うと、じつは、

万引きは抜けられなくなるリスクが高い犯罪です。

万引きを繰り返してしまう人が、そこから抜け出すために精神科のカウンセリングに通うケースもあります。

平成19年版の犯罪白書では、再犯者についての調査報告がされています。

平成19年版 犯罪白書
平成19年版 犯罪白書





70万人の初犯者・再犯者混合犯歴を対象としてされた調査では、対象者が最初にどのような罪を犯したかを調べ、その後の再犯の有無を調べ、罪名ごとに再犯に及んだかどうかの比率を出しています。

再犯に及んだ人の比率が最も高い犯罪が窃盗罪、次が覚せい剤取締法違反です。

これらについては、「同一再犯に及んだ者の比率が他の罪名の場合と比べて相当高く、同じ罪名の犯罪を繰り返す傾向が認められる」と報告されています。

一度、万引きを含む窃盗をしてしまうと、窃盗を含んだ犯罪を繰り返してしまうリスクがあるということ。


万引き、という一線を超えることは確率論からしてリスクが高い行為です。
イメージしやすさという意味で、利益率、コストパフォーマンスという言葉を使いましたが、犯罪は人生にとって致命的なコストを負担させられるリスクがあります。
利益を上げるためなら、勉強してまともにビジネスをした方が遙かにコストパフォーマンスが高いです。

みなさん、ワンピース全巻万引きなんて、くれぐれもしないようにしましょう。

昨年の忘年会で、「私に連絡をくれれば、ワンピース全巻を送ります」とスピーチしている方がいました(作者の尾田栄一郎さんじゃないですよ)。
私は、かつて、酔って自宅のPCをいじっていたら、数日後にワンピース全巻が届いた経験があります。

ああ、この方と、もっと早く出会っていれば・・・


今回逮捕された男性も同様の後悔をしていることでしょう。



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2012/01/28(Sat) | 刑事事件 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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