預金口座の差押えについて最高裁判所が一つの判断をしました。
平成23年9月20日決定
http://kanz.jp/hanrei/detail/81634/
一般的に、預金口座を差し押さえる際には、「○○銀行○○支店」の預金口座、というように支店を特定して申立てる方法がとられていました。
しかし、金銭請求をする相手方が、どこの支店に口座を開設しているかは分かりにくいものです。
そのため、支店を特定せずに差押えの申立をする方法をとることもありました。
「○○銀行の預金全部」を差し押さえる、というようなものです。
この方法をとっても、銀行は、他支店の口座情報も集約できるために不都合はないでしょう。
これが認められれば、差押えを申立てる側、すなわち金銭を回収する側、お金を取り戻す側にとっては有利な話です。
実際、このように支店を特定しない差押えを認める高等裁判所も出ていました。
しかし、今回の最高裁の判断はこれを否定したものです。
債権回収や被害金の取り戻しをする側に立つことが多い私としては、残念な判断です。
民事執行法で、一定の条件を満たせば、財産開示という手続で「どこに財産があるのか」開示させることが可能ではあります。
ただ、開示を拒絶しても大した制裁もないため、十分に機能していないのが実状です。
裁判で勝訴しても現金が回収できなければただの紙切れ。
今回の最高裁により、預金口座の差押えは支店が特定できないと機能しにくくなったため、より効果的な方法を考えていきたいと思います。
●決定抜粋
本件申立ては,大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし,先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは,順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする旨の差押えを求めるものであり,各第三債務者において,先順位の店舗の預貯金債権の全てについて,その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無,定期預金,普通預金等の種別,差押命令送達時点での残高等を調査して,差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り,後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ず
るか否かが判明しないのであるから,本件申立てにおける差押債権の表示は,送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押えられた債権を識別することができるものであるということはできない。そうすると,本件申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。
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今回の台風では小田原のファミレスに6時間半こもっていてエコノミー症候群になりかけています。
先日、移動中に『クヒオ大佐』という映画を観ました。
クヒオ大佐 [DVD]
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実在した結婚詐欺師の話です。
結婚詐欺とは、結婚を匂わせて、お金をだまし取る手法。
法律上、詐欺罪の対象は、財物や財産的権利に限られます。
女性の貞操は詐欺罪の対象外です(態様によっては準強姦罪)。
上記の『クヒオ大佐』では、「クヒオ大佐」と名乗る人物は、アメリカ軍とは無関係なのに身分を偽って複数の女性に近づきます。
女性はこれを信じてしまう。
その手口は、軍の身分証明書を偽造したり、軍の基地入り口まで送らせたり、結婚すれば5000万円の結納金が出ると説明するというものでした。
人は知らない世界の話だと疑いにくい。
疑うきっかけを見つけにくいのです。
アメリカ軍についての知識など普通の女性は持っていないため、だまされてしまうのでしょう。
また、映画の中で被害を受ける女性は、経済的な問題や男女問題が原因で精神的に不安定な状況にある点が共通していました。
誰しも弱っているときは騙されやすいのです。
この映画から得られる教訓として、弱っているときは判断を先送りする、知らない世界の話は裏付けを取る、ことが大事であることがわかります。
みなさん、大佐にだまされないように。
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先日、NHKの離婚番組をみて驚きましたが、離婚に関する費用を貸し付ける
離婚専用ローン
なるものがあるんですね。
数年前にできたサービスだそうです。
大垣共立銀行ウェブサイトで確認できます。
離婚したいけど、慰謝料を払えない、財産分与費用を払えない
というときに、銀行で借りて相手に払うもの。
大垣共立銀行では、
サービスを始めた当初は、ローンを使える要件として
大垣共立銀行の営業エリア内にお住まいの方(岐阜県、愛知県、三重県および滋賀県内)
という、ものが含まれていましたが、
現在のサイト上では、この要件は削除されています。
離婚をした後に家計が破綻するケースを何件も見ている弁護士からすると、離婚の費用までローンを組むという発想には疑問があります。しかし、お金に換えられないものがあるのも事実。
現在、利率は5%前後のようですので、消費者金融等に手を出すよりは良いでしょうね。
数年前からあって、NHKでも放映されたくらいなので、他の銀行も提供しているのではないかと調べたのですが、
見つかりませんでした。
他の銀行が追随していないところを見ると、
このサービス自体を知らないのか
離婚自体に反対なのか
貸倒率が高いのか
など色々な仮説が浮かんできますね。
結局、離婚事件で、このローンの話を出したいのは、、
慰謝料を請求する側が、「借りてでも払え」と感じるシーンでしょうね。
法的に相手に借金を強制することはできませんので、話題に出すにしてもやり方を考えないといけません。
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先日、法テラスから
「公判期日等の審理時間を情報提供してもらうことになりました」
というFAXが来ました。

現在、刑事事件で国選弁護人として活動する際には、法テラスという機関のシステムに従わないといけません。
国選弁護人には
1 裁判前の被疑者国選
2 起訴された後の被告人国選
の2種類があります。
裁判になる前の被疑者国選では、被疑者との面会の日時を報告しなければなりませんし、
裁判になった後の被告人国選では、裁判が開かれた時間まで報告する必要があります。

期日ごとに何分間、立ち会ったかを報告しないといけないのです。
被疑者弁護における国選弁護人の報酬は、被疑者との面会回数によって決まります。
以前に面会回数の報告の際に、過大請求をした弁護士がいたことから問題にされ、警察で複写式の申し込み用紙を準備するなどシステムが変わりました。
実際には過大請求した件数よりも、過少請求だった件数の方が多かったとのこと。
つまり、全体としては、報酬を多くもらおうとしたというより、いつ面会したか、しっかり記録しておけない弁護士が多い傾向にあることがわかりました。
「金が欲しい」というより「面倒くさい」という傾向。
今回は、被疑者弁護ではなく、裁判になった後の被告人国選。
私は認識していなかったのですが、ここでも、裁判に何分間立ち会ったかにより、報酬が微妙に変わるそうです。
そのため、現実の立ち会い時間よりも長い時間を不正に申告する弁護士がいないかチェックするために、裁判所から情報提供することになったそうです。
弁護士の申告は信用できないという前提に立つなら、第三者からの情報提供がされることは仕方がないかもしれません。
問題は、裁判所からも情報提供を受けるが、弁護士も自己申告せよ、という点が維持されるというシステム。
法テラスは、弁護士と裁判所の両方から情報提供を受けることになります。
なんたるムダ。
全体としてやることを増やすだけのシステム変更です。
この点をとらえて、弁護士の中には、いざというときに弁護士を陥れることができるシステムだと言う人もいます。
実際に裁判が開かれた時間が30分、裁判所からの報告が30分、弁護士が90分などと申告したら、多分報酬も違うのでしょう。
そうすると、過大請求したことになり、詐欺で立件もできてしまいます。
ここまで極端な差は別にして、法廷の時間なんて分単位で記録していないのが実状です。
数分の誤差など生じてしまうでしょう。
これを詐欺だと言われたらたまらない。
今回のシステムで、恐怖を感じた弁護士は、国選弁護の登録から脱退するかもしれません。
被疑者国選が拡大した時期には、私たちの支部でも、国選弁護の引き受け手が足りないのではないか、と集会なんて開いて会議していましたが、弁護士が増えて、いまは不足感ゼロな気がします。
これを機に、やめてしまう弁護士が出てもおかしくない。
私も今回のシステム変更で国選弁護の登録を辞めるか悩みましたが、刑事弁護から離れてしまうのも、私選弁護の依頼があったときに対応力が弱まるので、もうちょっとだけ続けようと思います(亀仙人風に)。
ムダなシステム作りに労力を費やしている機関に文句を言っても仕方がないので、
いかに正確な記録をつけるか、客観性を持った記録をつける習慣をつける方法を考えています。
法廷の出入り時にツイッターでつぶやきましょうか。
もし、法テラスから「石井先生、裁判所のメモと1分違いますよ」と指摘されたら、
法廷を出た後のiPhoneの起動時間だと説明すれば大丈夫でしょうか。
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本来、 勉強嫌いな私は、「勉強法」の本や「速読」
の本を読むことがあります。
ラクできるノウハウを探すことのほかに、これらの本を読む理由があります。
自分を洗脳するため、です。
人間は
「勉強ができるようになるよ」
とか
「本は速く読めるんだよ」
と言われると、何となくそうなっていくものです。
だからこそ、定期的に、こういう言葉を目にすることで、自分を洗脳して、デキるように方向づけていくのです。
最近読んだ勉強本に、ノウハウ導入の際に意識すべき、すぐれた視点がありました。
情報には「やることを減らす情報」と「やることを増やす情報」があります。
試験に役立ちやすいのは、前者の「やることを減らす情報」です。ところが、資格試験では圧倒的に、後者の情報が多いのです。
コツコツできない人でも短期間でスイスイ受かる! 超快速勉強法

ノウハウを学ぶ際に気をつけないといけないのが、やることが増えて面倒くさくなること。
これだと続かないです。
試験勉強でも、単語帳とか作れないし、ノートとか作れないし、
仕事でも、手帳を何冊も持てない。
新しいノウハウを導入する目的が効率にあるなら、導入の対価として何が減らせるのかを考えるようにしています。
そうしないと、やることが増えていくばかりになってしまう。
みなさん、やることを増やす情報にだまされないようにしてくださいね。
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お客さんから本を勧められることがあります。たいてい買います。
自分と全く関わりがない分野の本だと、衝撃を受けることがあります。
今回、お客さんのお気に入りという雑誌を購入。
『カミオン』

トラックにアートを施すという雑誌です。
そんなことをする人がいるのか、と思いきや、全国のアートトラックが紹介されています。
「アートが絆のライバル・バトル 荒波丸 vs 陸斗丸」
「深夜0時の生鮮特急を捕獲せよ」
「道連れフォトストーリー」
「トラックフォトギャラリー」
など、特集タイトルも刺激的。

こんな雑誌も存在するんですね。知らない世界をのぞき見てしまった。
雑誌を見るときに、もう一つチェックするのが広告主。
この雑誌では、トラックのパーツ屋さんのほか出会い系サイトの広告が目立っていました。
これを見て、パチンコ攻略法の雑誌広告と同じような不安感に襲われました。
法律用語で、不確実な事項を確実だと伝えることを「断定的判断の提供」と言います。
金融商品を勧誘する際に、「必ず値上がりします」「儲かります」と言うことなどが当てはまります。
出会い系サイトの広告って、「断定的判断の提供」だらけですね。
「絶対にハズさない」「出会い放題」「即アポ」「本当に会える」
みなさん、断定表現にだまされないように。
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かつて騙された人に対して、「隠し財産が見つかりました」という勧誘が流行っています。
騙される人は何度も騙される。
業界では常識。
昔から、次々に不当な商品を購入させられ続けたり、いろんな資格商法にはまってしまう人はいました。
このように、類似商品で何度も騙されるパターンのほかに、被害回復を持ちかける詐欺があります。
原野商法で無価値の土地を購入させられた人に対して、何年後かに「その土地を売ってあげましょう」と言ってお金を取る事件がありました。
騙された人の名簿リストが流れてしまい、二次的な勧誘がされるのです。
最近、弁護士のメーリングリスト内の情報で、弁護団も組まれているような消費者事件の被害者に対して
「業者の隠し財産が120億円見つかった。回復できますよ」という勧誘がされている、というものがありました。
偶然、うちの事務所に相談に来られた方の中に、この消費者事件とは違うものの、先物被害を受けた件で
「業者の隠し財産がスイスの口座に120億あるのを見つけました。差し押さえればお金が戻ってきます」
という勧誘を受けた人がいました。
金額がまったく一緒。
別事件の隠し財産のはずなのに勧誘会社名も一緒。
いやー、この会社は、複数業者の隠し財産を全く同じ金額、同じタイミングで見つけたということですね。すごいすごい。
その不自然さは置くとしても、フツーの会社が、報酬を取って他人の損害賠償請求を行うことは弁護士法違反。
弁護士法72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、・・・(中略)・・・その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
私の相談者のケースでは、5パーセントの手数料が取られる話でしたので、弁護士法違反の勧誘でした。
業者が用意した書類を一見すると、相談者に有利になっているのですが、
そんなおいしい話が
相手から、しかも違法な方法でくる
ということは、通常考えられません。
怪しさを感じ取ってくださいね。
この話は、プロの目から見ると、ツッコミ(違法)どころ満載の勧誘でしたが、人は損を取り戻そうとすると冷静さを欠いてしまうもの。
みなさん、隠し財産なんて言葉にだまされないように。
この土日、修習10周年のイベントが熱海で開かれたので、行ってきました。
弁護士や裁判官、検察官になる前には、司法修習という研修があります。
研修所を卒業して10年経ったときに、熱海のホテルに集まるというイベントが開かれます。
私のクラスは6割以上の出席率でした。
私は、午前中に相談を受けていたのでクールビズの格好で参加しましたが、ほとんどの人は私服で参加していました。一人だけスーツを着て弁護士バッジをつけていた人が目立っていました。
午後2時から全クラスがパーティー会場に集められ、教官の挨拶、クラスごとの写真撮影。
その後は、クラスごとの飲み会。
同窓会のようなものです。仕事で遅れてくる人、途中で帰る人もいました。
参加者は、そのままホテルに宿泊できますが、相部屋。私は、6人で一部屋の割り振りでした。夕食の宴会料理、朝食が付いて、1人35000円。宿泊してもしなくても変わらず。
しかも相部屋でこの値段って、かなり高いのでは?
その金はどこに?
という話も出ていました。
裁判官、弁護士、検察官が集まると、世の中の法律問題がけっこう見えてきます。
パチンコ攻略法詐欺の現場話から、結局、その金はどこに行っているのか。
預金口座の差押えで、システム上は問題なくできるはずの複数支店の差押えが認められてこなかった(最近、少しずつ認められてきた)のは何故か。
複数の視点が集まると、仮説も広がります。
ある事実からどんな仮説が立てられるかは、視点次第。
他の分野で仕事をしてきた人の視点は新鮮です。
これからの10年、今までの10年を圧倒する視点を身につけたいと思います。
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