
弁護士石井琢磨です。
裁判など紛争の当事者がよく言います。
「なんで、こんな簡単なことを裁判官が分からないのでしょうか」
「簡単に解決できる問題なんじゃないですか」
みなさんの立場から簡単に見えるのに、なかなか解決に至らないのはなぜでしょうか?
紛争には、「どのような事実があるか」のレベルの争いと、「それをどう評価するか」の争いがあります。
事実と評価の違いです。
そして、多くの紛争には「どのような事実があるか」で当事者間に争いがあるのです。
たとえば、「うちの夫は浮気をしているんです。だから慰謝料をもらいたい」という女性がいるとします。
浮気をしていれば、原則として、慰謝料を請求できます。
しかし、夫は言います。「いや、浮気してないから」
こうなると、妻は「浮気をしている」、夫は「浮気をしていない」と事実に争いがあります。
そのため、慰謝料が発生するかという「評価」をする前に、その対象となる事実を確定しないといけません。
つまり、浮気をしていたか否か。
自分の主張している「浮気をしている」という事実が認められれば、その後に「慰謝料が請求できる」という評価につなげるのはそんなに難しくありません(例外はありますけどね)。
当事者は、自分の主張している事実が当然に認めてもらえると考えてしまいがちです。
これを前提にすれば、紛争は簡単に解決できそうです。
しかし、裁判では違います。
証拠。
争いがある場合には、証拠から、どういう事実があったのかを認めていくのです。
だから、自分の主張している事実が認められることを前提に主張だけしていれば簡単に紛争が解決できる、とはならないのです。
みなさんも、上の例の「浮気」に自分の主張する事実を当てはめて考えてみてくださいね。
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という本で、岩瀬大輔さんが「訳者の言葉」に書いています。
これまでの私自身の経験を振り返ってみると、誰かと意見が対立し、合意に達することができないケースは、次の三つの場合でした。
1 前提となる事実認識が異なっている
2 結論を導くための考え方、あるべき基準に関する認識が異なっている
3 そもそも根底にある価値観が異なる
この1番です。
前提となる事実の捉え方が違っていると、紛争は簡単に解決できないんですよ。
なんで分かってもらえないのか?
と感じたときには、ちょっと離れた客観的な視点で事実を見つめ直してみてくださいね。
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権利があってもそれを使うことが許されない場合があります。
人にお金を貸しているからといって、「返せ」と請求することが恐喝罪など犯罪になることもあります。
違法な取立になると、逆に損害賠償請求をされてしまう。
請求側はいつ加害者になってもおかしくないのです。
取立の際に許されない行為をいくつか挙げておきます。
●玄関への貼り紙
最近では、家賃の取立の際に違法行為と認定されることが多い態様です。昔から借金の取立の際には使われていた方法で違法とされていました。
「正当な貸金債権の回収をはかる目的でしたものとはいえ、右認定した事実によれば、原告方玄関先の道路は、市営住宅に居住する多数の者が通行するところであるから、右貼紙をすることは、原告とその家族の正当に保護されるべき平穏な生活を不法に侵害するものであり、債権回収の方法として許されるベき範囲を逸脱した違法な行為」
新潟地方裁判所昭和57年7月29日判決
●借金を強制、暴力
取立の際に暴力を振るえばもちろん犯罪になります。「サラ金から借りて返せよ」という要求も危険。
「本件取立行為は、貸金の回収目的でしたものとはいえ、夜間控訴人を、その意に反してその自宅より連れ出し、控訴人にとり初対面の第三者に対し、借金の申し込みをさせて控訴人の名誉を侵害し、暴行を加えることにより不法に身体に危害を加えたものであって、債権回収行為として社会通念上許されるべき範囲を逸脱した違法な行為である」
大阪高等裁判所平成11年10月26日判決
●第三者に払わせる
法律上支払義務がない人に対して、支払を強制することはできません。成人がお金を返さない場合に「親に返させたいんですが」という相談を受けることがありますが、家族でも別人に対する請求は難しい。法人と個人も別です。法人名義の税金滞納について、個人資産に対して滞納処分をしたことが違法とされた裁判例もあります。
「同社の業務活動と原告の活動との混同の反復継続や有限会社法の組織規範の無視等を窺わせる証拠もないことからすると,一般論として有限会社の滞納関税について,その代表取締役と会社を同一視して代表取締役固有の財産に滞納処分をなしうる余地があるとしても,本件における上記の具体的な事実関係にかんがみると,実質的に原告1人がその業務全般を統括しているとの事実のみをもってAの法人格が形骸化しているということは到底できず,また,本件全証拠によっても原告が違法不当な目的のため会社法人格を濫用したとも認められないから,同社の本件滞納関税等に係る滞納処分として原告固有の財産である本件定期預金債権等を差し押さえることは許されないことが明らかである。」
神戸地方裁判所平成21年4月8日判決
●権利自体が違法
権利自体が存在しないとか、違法な場合には請求が許されません。架空請求と同じく違法になります。ヤミ金の請求も違法です。請求された側が自殺でもしてしまった場合には、その責任まで負わされる可能性があります。
「被告らの恐喝行為は,近隣住民をも巻き込み,収入はすべて奪われ,住む場所も失うとの恐怖を顧客に与え,顧客を精神的に追いつめていく過酷な行為であり,通常人であれば,上記恐喝行為から逃れる手段は死のみであると思うこともやむを得ないものであったというべきであり,Cらも同様に考えたことは容易に推認することができる。」
大阪地方裁判所平成21年1月30日判決
行き過ぎた権利行使に気をつけてください。
今朝、神奈川県央地域では強風が吹いていました。
相模川を挟んだ本厚木駅-厚木駅間では小田急線も運転見合わせ。
外を見たら、いろいろなものが宙を飛び交っていました。
先月から、強風が目立つなぁと感じています。
強風がらみの相談を受けることも出てきたり、自分が管財人になっている事件でも強風が原因で問題が発生したりしてしまいました。
強風で建物の一部などが飛んでいってしまうということもあります。
台風などの場合にも、ありがちな問題です。
このときによく使われる民法717条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
「建物」など土地の工作物に瑕疵(欠陥みたいなものです)があって人に損害を与えてしまったときには、賠償義務が出てきます。建物の瓦が飛んでいったり、看板が飛んでいったり、塀が倒れたりして誰かに損害を与えた場合に問題になってきます。
裁判では、損害を受けた人は「瑕疵がある」と主張し、建物などの所有者は「瑕疵がなかった」と主張して争いになることが多いです。
責任を負うかどうか、裁判例では風の強さや建物の状態によって判断がわかれています。
東京地方裁判所判決平成17年7月22日
建物の屋根や構造物が強風に飛ばされて落下して起きた自動車の破壊事故
瑕疵を否定→責任を負わないとの判断です。
この事案では、風速毎秒50メートルを超える強風だったとされています。当事者からは竜巻だったと主張されています。
あまりにも風が強かったので、建物の所有者は責任を負わないとされたもの。
福岡高等裁判所判決昭和55年7月31日
台風で飛散落下した屋根瓦が隣家建物を損傷した場合
屋根瓦の設置又は保存に瑕疵がある→責任を負うとの判断です。
「土地工作物に瑕疵がないというのは、一般に予想される程度までの強風に堪えられるものであることを意味し、北九州を台風が襲う例は南九州ほど多くはないが、過去にもあり、当該建物には予想される程度の強風が吹いても屋根瓦が飛散しないよう土地工作物である建物所有者の保護範囲に属する本来の備えがあるべきであるから、その備えがないときには、台風という自然力が働いたからといつて、当該建物に瑕疵ないし瑕疵と損害との間の因果関係を欠くものではない
瓦を針金で屋根に固定するとか、屋根瓦を止め金で固定するとか、漆喰で固定するとか、瓦の固定について建物所有者の保護範囲に属する本来の備えが不十分であつたと推認することができ、ひいては右屋根の設置又は保存に瑕疵かあつたというべきである」
なお、管理者が市町村など公的機関の場合には国家賠償法の話になります。瑕疵があるかどうかの話は、ほとんど民法717条と同じようなもの。
福岡地方裁判所久留米支部判決平成元年6月29日
台風によって、市の清掃工場施設内に在った旧工場建物の一部が吹き飛び駐車中の自動車に損傷を与えた事故
瑕疵を認めましたが、被害者にもこれを予測して自動車を安全な場所に移すことができたのにこれを怠った点に過失あるとして、6割の過失相殺
記録上その例を見ない程大規模な台風であったと主張されていますが、責任自体は認められています。
旧工場建物やその付帯施設等の老朽化が進んでいたのだから、もっと管理すべきだった、という判断です。
これらの裁判例は、物損ですが、ニュースでは人に怪我させるなどの事故も起きていると伝えられています。
また、土地の工作物だけではなく、木などが倒れるという事故もあります。この場合も民法717条と同じ(2項)。
物損も大変ですが、人に被害を与えてしまうと取り返しの付かないことにもなりかねません。
自分の管理している物が風で飛んで行ってしまわないか注意しましょう。本当に。
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渋滞のとき、2車線が1車線になる際の合流箇所。
1台ずつ入れてもらうというのが暗黙のルールになっていますよね。
しかし、その合流箇所を抜けて、かなり先の地点で、何とか割り込んで入れてもらおうとしている車を何台か見かけることがあります。
渋滞でイライラしているような運転で、なりふり構わなくなっているように見えます。
人は、追い詰められると、なりふり構わなくなってしまうものです。
ルールなんて関係なくなってきてしまいます。
車の運転には余裕を持ちたいものですね。
最近、ある裁判で問題が起きました。
裁判期日で主張することは、準備書面という文書にして事前に提出しておきます。
裁判期日の前に、相手方に届いていれば、その準備書面を陳述し、書いてある内容を主張したことにできます。
そのため、期日前に相手方に届けておく必要があります。
一般的に、この準備書面を届ける方法は、直送と呼ばれ、当事者間でおこなうことになります。
具体的には、書面を相手方にFAXや郵送して、相手方から受領書を裁判所に送ってもらうことになります。これで届いたと扱われることになります。
書面を受け取ったからには受領書を出さないといけません(民事訴訟規則83条2項)。
しかし、最近、この受領書を出さない業者が出てきています。
書面を確実に受け取っているのに、受領書を出さない。
裁判期日にも来ない。
そのため、余裕をもって準備書面を作成して提出しているのに、裁判期日で主張したことにならない。
裁判でも、「じゃあ、これは次回期日に陳述と言うことで」と言われ、裁判が無意味に延びていく。
たまたま受領書の提出ができなかったのか?と思いきや、他の弁護士や裁判所の話を聞くと、こういうことが何度か起こっている業者ようです。
これでは直送というシステムが機能しなくなります。
人も会社も、追い詰められると、なりふり構わなくなってしまうものです。
ルールなんて関係なくなってきてしまいます。
そんなときは、ルールが形骸化しないように、ルールに則って解決するしかないですね。
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裁判を起こす際には、実費がかかります。
最初に裁判所に書類を出す時点で、印紙代の支払と郵便切手を支払わないといけません。
印紙代は、裁判を起こす金額によって変わります。
10万円の裁判なら1000円、
100万円の裁判なら1万円というように。
郵便切手は、裁判所によって違うのですが、6000円程度の郵便切手の組み合わせを提出する必要があります。
裁判書類は、特別送達という特殊な方法で相手方に送られるため、郵便費用も高いのです。
ただ、裁判が終わった後、余りがあれば、切手がそのまま現物で返ってきます。
うちの事務所では、お客さまの事件中、返還された切手を再利用できる場合には利用し、事件終了時に余りがあれば、お返ししています。
このうち郵便切手について、横浜地裁本庁でのみ特別な扱いがされていました。
郵便切手の組み合わせを提出する代わりに、5000円の現金を納めることもできるのです。
これだと、裁判が終わった後、余りは現金で返還されることになりますし、もともと支払う金額も安い。
また、法律事務所側も、郵便切手の組み合わせを作る作業から解放され、郵便局の窓口も混まないというメリットがあります。
今回、この取扱いが、横浜地裁各支部に広がるとの連絡がありました。
川崎と横須賀では2月5日から、小田原と相模原では2月15日から始まるとのこと。
地味な分野でも、システムが良くなるのはうれしいものです。
裁判がまた少しだけ使いやすくなりました。
この取り扱いが早く簡裁にも広がって欲しいですね。
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