勤務先が夜逃げして未払給料がある場合の立替払い制度
勤務先


弁護士石井琢磨です。

「突然、勤務先が倒産、給料も未払だよー」という相談をたまに受けます。


「お金は、ない所からは取れない」というのが業界の常識です。
倒産してしまった以上、未払給料を全額回収するのはむずかしい。

ただし、破産手続などにおいて、給料は、他の権利よりも優先されます。
内容によっては税金と同じような優先的立場になることもあります。

それ以外に、8割は立替払いをしてもらえます。
労働者健康福祉機構がこの事業を担当しています。
こまかい要件や範囲などは機構のサイトで確認できます。
http://www.rofuku.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/417/Default.aspx

この立替払いには、未払額について破産管財人から証明してもらう必要があります。
私たち弁護士が、この立替払いの制度に一番関わるのは、この破産管財人としてのシーンです。


このように、勤務先が破産など裁判所を使った法律上の倒産をした場合は、この制度を利用することで、8割の立替払いを受けることができます。
破産をした場合には、この制度利用について、勤務先の代理人や破産管財人が主導して進めてくれることが多く、従業員一人一人の手間は少なくて済みます。

問題は法律上の破産手続をしない場合です。

勤務先が倒産する、というなかにも、法律上の破産などをしないというケースがあります。



どういうケースが考えられるでしょうか?


社長が夜逃げした。
社長が行方不明。
社長が自殺して遺族は全員相続放棄。

そして、会社はそのまま放置。

どれも実際に聞く話です。

関係者がみんな困る。

このような場合、代表者がいないため、勤務先が自己破産の申立をすることができません。
厳密には、未払給料という権利を持っている従業員が、債権者としての立場で勤務先の破産を申し立てることもできますが、裁判所に払う費用も高く、現実的ではありません。


勤務先がこのようなことになってしまったとき、従業員として何ができるでしょうか?


勤務先が法律上の倒産をしない場合、従業員が、未払賃金の立替払いを受けることだけを考えるのであれば、労基署に事実上の倒産を認定してもらう方法もあります。
未払賃金立替払

この方法は、勤務先が中小企業であることが前提になりますが、

・勤務先の事業活動が停止し、
・再開する見込みがなく、
・賃金支払能力がない状態になった

場合に使えます。

労基署に認定申請書を提出して、「この会社は事実上倒産している」と認定してもらい、その後、立替払いをしてもらうのです。

私個人の印象として、この制度はあまり使われていないのではないかと思っていたのですが、先日、労働者健康福祉機構の人から教えてもらった情報だと、平成23年度の統計上、企業件数では、「事実上の倒産」が立替払い制度全体の47%を占めているとのことです。

意外に使われています。

勤務先が

社長が夜逃げした。
社長が行方不明。
社長が自殺して遺族は全員相続放棄。

のような状態になって、未払給料がある場合に、従業員として、まず使ってみる価値のある手続だと思います。


ただし、昨年、未払賃金立替払い制度を利用した詐欺事件があったことから、疑わしい事案は審査が厳しくなっています。

詐欺の輩のせいで
本当に未払給料があるの?
と疑われてはたまりません。

そのため、申請に必要な資料はしっかり残しておきましょう。
給料明細、源泉徴収票は一定期間とっておく。
雇用契約書などあればとっておく。
場合によっては賃金台帳の写しを確保する。


県内では不況型倒産が増えていると報道されました。
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1205070015/

勤務先が万が一の事態になったときには、この制度のことを思い出すようにしてください。

労働者健康福祉機構のサイト




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2012/05/16(Wed) | 借金問題 | トラックバック(1) | コメント(0) | page top↑
ノルマと法律問題まとめ
弁護士石井琢磨です。

1週間にわたり、ノルマと法律問題について「ノルマの泣き言」シリーズをお伝えしてきました。
せっかくなので、まとめておきます。

1 銀座高級クラブノルマ事件(ノルマ未達成により懲戒処分で減給された)
2 出来高払い(ノルマ未達成で給料が減った)
3 強制買い取り(ノルマ未達成で買い取りを強制された)
4 ノルマとボーナス(ノルマでボーナスが減った)
5 能力不足による解雇(ノルマ未達成による解雇)
6 パワハラ(ノルマ未達成で怒られすぎ)
7 残業代と裁量労働制(ノルマと残業代)
8 過労で精神障害(ノルマと労災)

このようにノルマと法律問題について問題点をいろいろと書いてきました。
しかし、私自身、ノルマは良いものだと考えています。
私のような面倒くさがり屋は、自分自身にノルマを課すことで、行動することができます。
いや、ノルマでも課さないと、行動できないと言ってもよいでしょう。

人から課せられたノルマでも、それにより行動に結びつくなら、存在意義はあります。

問題なのは、人から課せられた不当なノルマだけなのです。

会社からノルマが課せられたとき、明らかに不当なものもあれば、一見して不当そうではあるものの、後にそれが自分の成長につながるものもあります。

その見極めこそが大切なのではないでしょうか。



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2012/05/14(Mon) | ノルマの泣き言 | トラックバック(1) | コメント(0) | page top↑
ノルマの泣き言8 過労で精神障害
過労で倒れる


弁護士石井琢磨です。

過去7回にわたって見てきたノルマ法律問題シリーズも今回で終わりです。

今回はノルマによって考え得る最大の悲劇。解雇を上回る恐怖です。


最後の泣き言 「もうオレには ノルマしか見えねえ−」

そんなつぶやきをしながら仕事をしている人の中には、過労で倒れてしまう人もいます。

ひどい場合には働きすぎて過労死


ここ10年で増えているのが過労で精神を病み自殺してしまう過労自殺です。

精神障害等を理由とする労災請求件数は10年で約4倍に増えています。



仕事でケガをした場合、労災が認められます。

仕事で精神を病んだ場合も同様に労災が認められるのです。

ただし、精神的なものの場合、客観的に仕事が原因なのかわかりにくい。
労災は、労働者を業務上の災害から守るもの。

プライベートで悲しいことがあり、それで精神を病んでしまった方は補償の対象外となります。
しかし、精神的なものの場合、原因がなんなのか、ハッキリとわかるものではないのです。

そこで、厚生労働省では、精神障害の労災認定について基準をつくっています。
わかりやすい案内は、厚生労働省のホームページ上からダウンロードできます。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-15.html

この基準は、あくまで厚生労働省による行政上のものです。
この基準を満たさず労災が適用されない、と判断されたとしても、裁判で争っていくことは可能です。

裁判所では、必ずしもこの基準で判断するわけではなく、証拠から明らかにされた実態をみて判断し、行政上の判断を取り消すこともあります。

ただ、もちろん、基準を満たして裁判をせずに労災適用される方がラクです。

この労災認定のための要件は
1 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
2 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3 業務以外の心理的負荷や個体的要因により発病したとは認められないこと

簡単に訳しますと、
1は、きめられた病気じゃないとダメ
2は、病気になる前半年間に、仕事でつらいことがあった
3は、プライベートが原因じゃないのかチェック
というものです。

この2番の、「仕事でつらいことがあった」にはいくつもの基準が挙げられています。
・仕事で、重大な事故を起こしてしまった
・自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた
・顧客や取引先からクレームを受けた
などいくつかの事情が記載され、その事情ごとに、どの程度だったかを判断することになります。

その基準のひとつに、ノルマがあります。

・ノルマが達成できなかった
ことや
・達成困難なノルマが課された
ことが挙げられています。

ノルマが達成できなかったという結果だけではなく、
ノルマが課された、ということ自体が一つの基準になっているのです。

ノルマ労災


ノルマを課すこと自体は違法ではないという考えもありますが、このような労災の基準からすると、
あまりに過酷なノルマを課すこと自体が違法と判断されるリスクもあるでしょう。

裁判例をみても、ノルマうつ事件(長崎地裁平成22年10月26日判決)では、「ノルマの不達成につきペナルティ制度が存在しなかったからといって,厳しいノルマ設定による原告の心理的負担の程度が小さかったということはできず,むしろ,ノルマの不達成によりB部長から厳しい叱責を受けることが容易に予測される状況にあったことからすれば,厳しいノルマ設定により原告に心理的負荷を与えたものと認められる。」としており、ノルマの設定自体も労働者に心理的な負荷を与え、うつ病の原因になっていると判断しています。

裁判官の言葉 「前の年に比べてノルマが厳しすぎ」


このように、ノルマは、労災における精神障害等の判断基準の一つにもなっているのです。


ノルマで倒れたり、命を失うことは避けなければなりません。

ノルマごときで死んではいけません。


身体・精神に不調を感じる方は、早めに医療機関を受診するようにしてください。

「ノルマしか見えねえ」状態になったら要注意です。視野を広く。


最近、就活失敗し自殺する若者の数が4年で2・5倍になったとの報道がされました。
「そんなことで・・・」というのが社会人の感想ではないでしょうか。
端から見れば些細な悩みで人は命を絶ってしまうものです。

あなたの悩みも、端から見れば「そんなことで・・・」と言われるものかもしれません。

視野を広く



ときには休息もとりましょう。
『SPA!』でも読んで。

SPA!



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2012/05/12(Sat) | ノルマの泣き言 | トラックバック(2) | コメント(0) | page top↑
ノルマの泣き言7 残業代と裁量労働制
残業代



弁護士石井琢磨です。

もう少しだけ、ノルマについてお伝えします。
前回まで、ノルマ未達成によるマイナス面、給料減額、買い取り、解雇、怒られるなどの法的問題をお伝えしてきました。

今回はノルマを達成していても、問題になる点です。


今回の泣き言 「ノルマで働きまくっているのに、残業代が出ない!


厳しいノルマと一緒に問題になるのが、残業代です。

ノルマが厳しければ、多くの人は労働時間を増やして達成しようとします。残業時間も増える。

使用者が短期的な利益を目標にしている場合、残業代は抑えたいと考えるでしょう。
ノルマを課している理由が利益を上げることにあれば、売上が上がっても人件費というコストが上がっては効果が弱まります。


使用者側に向けて書かれた書籍のなかでは、残業代を回避するための方法が紹介されています。

そのなかの一つに、裁量労働制の採用があります。

一部の専門職では、仕事のやりかたや時間配分を労働者の裁量にまかせる必要があり、使用者が細かく指示するのに適していません。そのため、決められたルールの下で、残業時間を一定時間にみなすことができます。

この裁量労働制の適用範囲は少しずつ広がっています。

研究者、医師、デザイナー、記事・テレビ・ラジオの取材や編集のような仕事が対象になります。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html


このような制度があると、どうなると思いますか?

本当は適用されない業務にも、この制度を使おうとする会社が出てくるのです。


裁量労働制なのか?が争われる裁判のなかで、ノルマが取り上げられた事例があります。
システムエンジニアの仕事について、裁量労働制だとして残業代を払っていなかったケースです。

SEノルマ事件(京都地裁平成23年10月31日判決)では、労働者の仕事がシステムの設計といっても一部のみであって裁量が広く認められる性質のものではないことのほか、「タイトな納期を設定していたこと」や、一部の業務に「未達が生じるほどのノルマを課していた」ことから、裁量労働制の適用を否定し、残業代を支払うよう命じています。

裁判官の言葉 「裁量、かなりないよね

この裁判では、管理監督者だから残業代は払わないという主張もされていましたが、これも否定されています。

いわゆる名ばかり管理職として大きく報道された問題です。


厳しいノルマが課せられているのに、裁量労働制など残業代がカットされているという、ノルマのジレンマに陥ってしまっている人は、その制度が本当に適用されるのか、チェックしてみてください。



「いいものを作ろうと集中していると、時間がいつの間にか過ぎていく」旨のプロ発言をしていた『SPA!』の編集者さんから夜の1時にメールが来ていて、驚きました。


SPA!



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2012/05/12(Sat) | ノルマの泣き言 | トラックバック(1) | コメント(0) | page top↑
ノルマの泣き言6 パワハラ
パワハラ



弁護士石井琢磨です。

これまでノルマ未達成による給料の減額や解雇、ボーナスの取扱について、法的な問題を取り上げてきました。

今回は、法的に問題といえるかどうか、微妙なテーマです。



ノルマが達成できないとき、解雇や買取を求められる、減給・・・など今まで扱ってきた問題より前に、なにがあるでしょうか?


ノルマが達成できなかったよー、あー、こんなんで会社に戻ったら・・・


そう



怒られる。



誰しも怒られたくありません。
私の周りには「私は怒られるのが大嫌いなのだ」と何度も主張する人物もいます。


今回の泣き言 「ノルマ達成できず、怒られた!


多くの上司には、「え?怒られた?だから?」と言われそうです。
部下を怒るというのは、微妙な問題です。



何が微妙かというと、怒っていても、
指導している
とも認められることもありますし、
人格否定だとしてパワハラだ
と言われることもあります。


どのような状況で、どんな発言をしたのか

裁判では、個別の事情を検討していくため、

ある一つの発言、行動を捉えて、パワハラだ、違法だ、慰謝料だ

と直ちに言えないところがあります。



上司が暴力を振るった、というケースであれば、もちろん違法になるでしょう。
暴力や脅迫レベルであれば上司の行為は犯罪行為であり違法です。

理由なく、人格を否定するような発言があれば、違法になる可能性が高いです。

ただ、指導のための叱責との境界線がハッキリしていないため、
一部の発言を捉えて、パワハラだとして、それだけで裁判を起こすことは、現実的ではないと考えます。

パワハラの裁判は、セクハラ裁判よりも事例が圧倒的に少ないということもあります。

パワハラにより実際に裁判で慰謝料が認められるケースは、
上司の発言や行動が続いたため、精神を病んでしまったり、残業続きで体調を崩すなど、
パワハラ以外の事情もあるケースがほとんどです。

たとえば、長時間労働事故事件(津地裁平成21年2月19日判決)では、長時間労働に加え
「こんなこともわからないのかと言って,物を投げつけたり,机を蹴飛ばす」
「勤務時間中にガムを吐かれたり,測量用の針の付いたポールを投げつけられて足を怪我するなど,およそ指導を逸脱した上司による嫌がらせを受けていた」
ことをパワハラと認定、会社に責任を負わせています。


このようなパワハラの相談は増えているため、厚生労働省は今年に入って初めてパワハラの定義をまとめました
裁判ではこれに拘束されるものではありませんが、参考までに。

1 暴行・傷害(身体的な攻撃)
2 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

会社に改善を求める際には使える材料です。

ノルマ未達成の場合の行き過ぎた叱責以外に、達成不可能なノルマの強制はそれ自体で4番に当てはまりそうです。


犯罪レベルなら即相談、
厳しい発言が続き心が折れそう、体調不良であれば、まず身体のことを考えた方が良いでしょう。
医療機関を受診するなどして健康を維持しましょう。


裁判官の言葉 「人間性を否定するかのような不相当な表現を用いての叱責はダメ」


私がコメントした『SPA!』の前の号の特集は、
「クビにしたい40代社員の共通点」でした。
精神が折れそうな場合には、こういう特集を読んでみるのも良いかもしれませんね。

SPA


ネット上ではFujisanなどから買えるようです。



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2012/05/11(Fri) | ノルマの泣き言 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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